工事代金についてトラブルが生じることはよくあります。典型的には、工事に不備があったのでその補修費用を控除したい、あるいは追加変更工事代金を請求されたが、もともと締結していた請負契約の範囲内で行うべき工事であるから支払いたくないなどの場合です。
ここでは、発注者側の立場に立って、請負業者から工事代金の請求がされた場合について見ていきます。
工事に不備があるので補修費用を控除したい
工事に不備があった場合、その不備の内容にもよりますが損害賠償請求が可能な場合があります。損害賠償請求が可能であり、かつ、まだ請負代金を全額支払っていない場合は、損害賠償請求権と請負代金債権を相殺することが可能です。
工事に不備があるケースとしては、契約で定められた仕様通りになっていない、建築基準法等の建築法規に違反しているなどのケースがあります。
建築基準法等の建築法規に違反しているということであれば、工事に不備があることは明白といえる場合も多いでしょう。
他方、契約で定められた仕様どおりになっていないというケースでは、それが不備に当たるのかどうか争いになることがあります。特に、そもそも契約において定められていた工事の仕様等がどのようなものであるかが不明確な場合に紛争化しやすくなります。合意された仕様がどのようなものかがはっきりしなければ、実際に施工された結果が不備なのかどうかが判断できないためです。
工事の不備が問題になる裁判では、合意された仕様がどのようなものかについて、発注者において立証する必要があります。その際は、契約時にやり取りされた図面、仕様書、施工途中における受発注者間のメール、定例会等の打合せ議事録等を証拠として提出することになります。
したがって、契約時の図面や仕様書において仕様等を明確に定めること、メールや議事録等で、協議の結果どのような仕様とすることとなったのかを記録しておくことが重要です。
追加変更工事代金を請求されたが支払う理由がない
工事請負契約においては、契約時に予想していなかった変更工事や追加工事が発生することは非常に多いと思われます。
追加変更工事代金の請求に関してよくトラブルとなるケースとして、追加変更工事なのか、当初締結した請負契約の範囲内の工事なのかが争いになるもの、追加変更工事ではあるものの本当にその工事を施工したのかが確認できないもの、追加変更工事を施工したことは確認できるもののその代金額について争いになるものがあります。
追加変更工事なのか否かがはっきりしないケースでは、請負業者としては、当初契約時に作成した見積りに含まれていない項目であるから追加工事であると主張してくることも多くあります。しかし、それは単に本来見積りに含めるべき項目を請負業者が漏らしてしまったというだけの場合もあります。追加工事に当たるのか、それとも単なる見積落としなのかは、当初の請負契約において合意されていた施工に必要な項目かどうかも重要なポイントです。
次に、追加変更工事に当たることは確かであるもののその工事を施工したかどうかが確認できないケースがあります。これは、すでに施工された建築物が使用に供されており、容易に施工部分を確認できないような場合に生じることがあります。
この場合、実際に施工されたかどうかについては、施工途中に撮影された写真や竣工図によって確認していくこととなります。もっとも、これらの資料でも確認できないこともありますので、トラブルを未然に防ぐためには追加変更工事を行った旨の報告があったら都度その部分を確認することが必要です。
最後に、追加変更工事を施工したことは確実であるもののその代金額について争いになるケースです。
追加変更工事が発生した場合、その代金の額について合意されていれば紛争化はしにくいでしょう。しかし、実際には代金の額についてまでは合意できていないことも多くあり、そのような場合には竣工後に金額を巡ってトラブルになる場合があります。
法律上は、代金の額について合意できていない場合であっても、「相当な報酬」であれば請求可能であるとされています。裁判におけるこの「相当な報酬」の認定は、契約時から竣工後までの様々な事情を手掛かりに認定されるので、発注者側は注意が必要です。特に、請負業者から具体的な追加変更工事の額の提示があった場合に、完工を優先するあまりに額の交渉を放置していると、場合によっては請負業者から提示された額が重視されてしまいます。したがって、発注者としては具体的な額について施工途中からしっかりと意識して交渉しておく必要があります。
請負業者から工事代金の請求を受けた場合のポイント
工事に不備がある場合と、請負業者から追加変更工事代金の請求をされた場合のポイントについては以上のとおりとなります。
整理すると、工事に不備があると言えるかは契約時の資料、施工途中の資料が重要です。
また、追加変更工事に関しては、請負業者が主張している工事がそもそも追加変更工事に当たるのか、当たるとしても実際に施工したことを確認できるのか、代金額については妥当なのかという点を意識して対応する必要があります。
まとめ
ここでは請負業者から工事代金の請求がされた場合の、発注者としての対応についてご説明しました。
実際に請負業者から工事代金の請求がなされた場合で、工事の不備や追加変更工事が関係する場合は、ここでご説明した点を意識して対応されてください。
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